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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)145号 判決 1989年9月22日

東京都千代田区外神田六丁目五番四号

原告

株式会社電子機械サービス

右代表者代表取締役

福永忠男

右訴訟代理人弁護士

高木伸學

東京都千代田区神田錦町三丁目三番地

被告

神田税務署長

玉田喜久男

右指定代理人

萩原秀紀

高橋孝二

村田太一郎

小林洋嗣

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の論旨

1  被告が原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五九年一二月二六日付けでした更正のうち、所得金額八七三万四九三三円、納付すべき税額二四二万四六〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が原告の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五九年一二月二六日付けでした更正のうち、所得金額一二三二万〇八七〇円、納付すべき税額三八三万九一〇〇円を超え部分及び重加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  被告が原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五九年一二月二六日付けでした更正のうち、所得金額一六九三万〇〇四七円、納付すべき税額五七七万五五〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

4  被告が原告の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五九年一二月二六日付けでした更正のうち、所得金額一五六六万一〇〇三円、納付すべき税額五二三万四五〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

5  被告が原告の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五九年一二月二六日付けでした更正のうち、所得金額二〇八四万五〇五四円、納付すべき税額七一八万〇八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)並びに重加算税賦課決定を取り消す。

6  被告が原告の昭和五四年一二月分ら昭和五九年三月分までの源泉徴収に係る所得税について昭和五九年一二月二四日付けでした納税の告知及び不納付加算税賦課決定(ただし、いずれも、昭和五六年三月分については、異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

7  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (処分等の経緯)

(一) 原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五五年三月期」という。)、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五六年三月期」という。)、昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五七年三月期」という。)、昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年三月期」という。)及び昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年三月期」という。)の各法人税に係る更正等の経緯は、それぞれ別表一の1ないし5記載のとおりである(以下、各更正を「本件更正」、各重加算税賦課決定を「本件重加算税賦課決定」、各過少申告加算税賦課決定を「本件過少申告加算税賦課決定」という。)。

(二) 原告の昭和五四年一二月分から昭和五九年三月分までの源泉徴収に係る所得税(以下「源泉徴収所得税」という。)に関する納税の告知等の経緯は、別表一の6(付表も含む。)記載のとおりである(以下、右納税の告知を「本件納税の告知」、右不納付加算税賦課決定を「本件不納付加算税賦課決定」という。)。

2  (処分の違法事由)

(一) しかしながら、本件更正(ただし、昭和五六年三月期及び昭和五九年三月期については、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下同様とする。)は、いずれも、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがって、本件更正を前提として被告がした本件重加算税賦課決定(ただし、昭和五六年三月期については、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下同様とする。)及び本件過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和五九年三月期については、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下同様とする。)も違法である。

(二) また、本件重加算税賦課決定は、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を原告が隠蔽又は仮装した事実がないにもかかわらずなされた点でも、違法である。

(三) 本件納税の告知(ただし、昭和五六年三月分については、異議決定により一部取り消された後のもの。以下同様とする。)は、支払われた所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがって、本件納税の告知を前提とする本件不納付加算税賦課決定(ただし、昭和五六年三月分については、異議決定により一部取り消された後のもの。以下同様とする。)も違法である。

3  よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおり、本件更正等の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件更正の適法性について

(一) 昭和五五年三月期

原告の所得金額は、別表二記載のとおりであって、その内容は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 八七三万四九三三円

(2) 架空給料手当計上否認 二三六万二七五〇円

<1> 原告は、別表二の付表記載のとおり、支払年月欄の各月分の給料手当てとして、給料手当実際支払額欄の金額を使用人に支払っていたが、総勘定元帳の給料手当勘定には、給料手当勘定計上額欄の金額を計上し、これを損金の額に算入した。その差額である架空給料手当計上額欄の金額に相当する金員のうち大部分は、原告の代表取締役福永忠男の銀行口座に入金され、その余の部分は、右福永に現金で手渡された。

<2> 右金員は、福永忠男個人が費消し、あるいはその蓄財に充てられた。したがって、原告は福永忠男に対し、右金員を給与として支給したことになるが、当該支給は、その時期、回数及び趣旨等に照らすと、経常性のない一時的なものであって、臨時的な給与、即ち役員賞与の支給というべきである。そうすると、右金員は、法人税法三五条一項の規定に基づき、損金とは認められないから、所得金額に加算した。

(3) 売上計上漏れ 八三万八一〇〇円

<1> 原告は、テイアック株式会社(以下「テイアック」という。)との間で、テイアックが販売した製品の修理等のサービスを代行することを内容とする請負契約を締結し、当該契約に基づき、製品の修理等の役務の提供をなし、その対価をテイアックから売上げとして得ている。

<2> ところが、原告は、テイアックに対する昭和五五年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額八三万八一〇〇円を売上げとして益金の額に算入していなかったので、右金額を当事業年度の所得金額に加算した。

(4) 売上過大計上額認容 四〇万九八二〇円

原告は、昭和五四年三月期の益金の額に算入すべき金額四〇万九八二〇円を当事業年度の売上げとして計上していたので、右金額を減算した。

(二) 昭和五六年三月期

原告の所得金額は、別表三記載のとおりであって、その内容は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 一二三二万〇八七〇円

(2) 架空給料手当計上否認 五四〇万円

<1> 原告は、昭和五五年三月期と同様に、別表三の付表記載の架空給料手当計上額欄の金額に相当する金員を福永忠男の銀行口座に入金するなどしていた。

<2> 右金員は、前記のとおり、福永忠男に対して支払われた役員賞与というべきであり、損金とは認められないので、所得金額に加算した。

(3) 売上計上漏れ 二〇万六三七〇円

原告は、昭和五五年三月期と同様に、テイアックに対する昭和五六年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額二〇万六三七〇円を売上げとして益金の額に算入していなかったので、右金額を当事業年度の所得金額に加算した。

(4) 損金と認められない交際費 七五万円

原告が昭和五六年三月三一日付けで交際費として計上して損金の額に算入した七五万円は、その使途が明らかでないので、これを所得金額に加算した。

(5) 売上過大計上額認容 八三万八一〇〇円

原告は、前記のとおり、昭和五五年三月期の益金の額に算入すべき金額八三万八一〇〇円を当事業年度の売上げとして計上していたので、右金額を減算した。

(6) 事業税認定損 三一万一一二〇円

昭和五五年三月期の更正額に見合う事業税三一万一一二〇円を当事業年度の所得金額から減算した。

(三) 昭和五七年三月期

原告の所得金額は、別表四記載のとおりであって、その内容は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 一六九三万〇〇四七円

(2) 架空給料手当計上否認 五八九万八〇〇〇円

<1> 原告は、昭和五五年三月期と同様に、別表四の付表記載の架空給料手当計上額欄の金額に相当する金員を福永忠男の銀行口座に入金するなどしていた。

<2> 右金員は、前記のとおり、福永忠男に対して支払われた役員賞与というべきであり、損金とは認められないので、所得金額に加算した。

(3) 売上計上漏れ 一二六万七六三〇円

原告は、昭和五五年三月期と同様に、テイアックに対する昭和五七年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額一〇〇万三六三〇円及び原告が前記請負契約と同様の契約を締結して役務の提供をしていた株式会社シャープ東京エンジニアリング(以下「シャープ」という。)に対する昭和五七年三月一六日から同月三一日までの間の役務の提供に対する対価と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額二六万四〇〇〇円を売上げとして益金の額に算入していなかったので、右総合計金額一二六万七六三〇円を当事業年度の所得金額に加算した。

(4) 売上過大計上額認容 二〇万六三七〇円

原告は、前記のとおり、昭和五六年三月期の益金の額に算入すべき金額二〇万六三七〇円を当事業年度の売上げとして計上していたので、右金額を減算した。

(5) 事業税認定損 六八万七三二〇円

昭和五六年三月期の更正額に見合う事業税六八万七三二〇円を当事業年度の所得金額から減算した。

(四) 昭和五八年三月期

原告の所得金額は、別表五記載のとおりであって、その内容は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 一五六六万一〇〇三円

(2) 架空給料手当計上否認 四〇九万六〇〇〇円

<1> 原告は、昭和五五年三月期と同様に、別表五の付表記載の架空給料手当計上額欄の金額に相当する金員を福永忠男の銀行口座に入金するなどしていた。

<2> 右金員は、前記のとおり、福永忠男に対して支払われた役員賞与というべきであり、損金とは認められないので、所得金額に加算した。

(3) 売上計上漏れ 二〇三万七三四〇円

原告は、昭和五七年三月期と同様に、テイアックに対する昭和五八年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額一一九万六三四〇円及びシャープに対する昭和五八年三月一六日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額八四万一〇〇〇円を売上げとして益金の額に算入していなかったので、右総合計金額二〇三万七三四〇円を当事業年度の所得金額に加算した。

(4) 売上過大計上額認容 一二六万七六三〇円

原告は、前記のとおり、昭和五七年三月期の益金の額に算入すべき金額一二六万七六三〇円を当事業年度の売上げとして計上していたので、右金額を減算した。

(5) 事業税認定損 六七万六七六〇円

昭和五七年三月期の更正額に見合う事業税六七万六七六〇円を当事業年度の所得金額から減算した。

(五) 昭和五九年三月期

原告の所得金額は、別表六記載のとおりであって、その内容は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 二〇八四万五〇五四円

(2) 架空給料手当計上否認 三五五万六六〇〇円

<1> 原告は、昭和五五年三月期と同様に、別表億の付表記載の架空給料手当計上額欄の金額に相当する金員を福永忠男の銀行口座に入金するなどしていた。

<2> 右金員は、前記のとおり、福永忠男に対して支払われた役員賞与というべきであり、損金とは認められないので、所得金額に加算した。

(3) 売上計上漏れ 五三七万〇九七〇円

原告は、昭和五七年三月期と同様に、テイアックに対する昭和五九年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額四四二万三一七〇円及びシャープに対する昭和五九年三月一六日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額九四万七八〇〇円を売上げとして益金の額に算入していなかったので、右総合計金額五三七万〇九七〇円を当事業年度の所得金額に加算した。

(4) 売上過大計上額認容 二〇三万七三四〇円

原告は、前記のとおり、昭和五八年三月期の益金の額に算入すべき金額二〇三万七三四〇円を当事業年度の売上げとして計上していたので、右金額を減算した。

(5) 事業税認定損 四五万一三〇〇円

昭和五八年三月期の更正額に見合う事業税四五万一三〇〇円を当事業年度の所得金額から減算した。

(六) 以上のとおり、原告の所得金額は、

昭和五五年三月期 一一五二万五九六三円

昭和五六年三月期 一七五二万八〇二〇円

昭和五七年三月期 二三二〇万一九八七円

昭和五八年三月期 一九八四万九九五三円

昭和五九年三月期 二七二八万三九八四円

であって、本件更正(昭和五六年三月期及び昭和五九年三月期については、審査裁決により一部取り消された後のもの)における各所得金額は、右各所得金額の範囲内であるから、いずれも、適法である。

2  本件重加算税賦課決定及び本件過少申告加算税賦課決定の適法性について

(一) 本件重加算税賦課決定

前記のとおり、原告が福永忠男に対し支給した金員を使用人の給与手当てとして損金に計上したことは、国税通則法六八条一項に規定する事実の隠蔽又は仮装に該当するから、同法条の規定に基づき、別表七記載のとおり、各重加算税を賦課決定したのであって、本件重加算税賦課決定は適法である。

(二) 本件過少申告加算税賦課決定

前記のとおり、原告の昭和五九年三月期の所得金額につき、売上計上漏れとして述べた事実は、確定申告にあたり、その税額の計算の基礎とされていなかったことについて、正当な理由があるとは認められないので、国税通則法六五条一項の規定に基づき、別表七記載のとおり、各過少申告加算税を賦課決定したのであって、本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

3  本件納税の告知及び本件不納付加算税賦課決定の適法性について

(一) 本件納税の告知

(1) 前記のとおり、原告は、福永忠男に対し、役員賞与を支給していたにもかかわらず、右賞与に係る源泉徴収所得税を納付していなかった。

(2) また、原告は、福永藤太呂に対し、昭和五六年四月から昭和五九年三月までの各月に、月額五万円の役員報酬を支給していたにもかかわらず、右報酬に係る源泉徴収所得税を納付していなかった。

(3) そこで、被告は、右賞与及び報酬に係る源泉徴収所得税を徴収するために納税の告知をしたのであり、本件納税の告知は適法である。

(二) 本件不納付加算税賦課決定

右のとおり、本件納税の告知は適法であり、原告がこれにより納付すべき源泉徴収所得税額を法定納期限までに納付しなかったことについて国税通則法六七条一項ただし書きに規定する正当な理由があるとは認められないので、同法条本文の規定に基づき、本件納税の告知により納付すべき各月の源泉徴収所得税の額(同法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した不納付加算税の賦課決定をしたのであって、本件不納付加算税賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)につき、(1)は認める。(2)のうち、<1>は認めるが、<2>の事実は否認し、当該金員を役員賞与というべきであるとの主張は争う。当該金員は所得金額に加算するべきではない。(3)につき、<1>は認める。<2>の事実は認める。当該加算はするべきではない。(4)は争う。当該金額は当事業年度の益金の額に算入するべきである。

2  同1(二)につき、(1)は認める。(2)のうち、<1>は認めるが、<2>は争う。(3)の事実は認める。当該加算はするべきではない。(4)は争う。当該七五万円は交際費である。(5)及び(6)は争う。

3  同1(三)につき、(1)は認める。(2)のうち、<1>は認めるが、<2>は争う。(3)の事実は認める。当該加算はするべきではない。(4)及び(5)は争う。

4  同1(四)につき、(1)は認める。(2)のうち、<1>は認めるが、<2>は争う。(3)の事実は認める。当該加算はするべきではない。(4)及び(5)は争う。

5  同1(五)につき、(1)は認める。(2)のうち、<1>は認めるが、<2>は争う。(3)の事実は認める。当該加算はするべきではない。(4)及び(5)は争う。

6  同1(六)は争う。

7  同2は争う。

8  同3(一)につき、(1)のうち、原告が当該源泉徴収所得税を納付していなかった事実は認め、その余の事実は否認する。(2)の事実は認める。(3)は争う。

9  同3(二)は争う。

五  原告の反論

1  架空給料手当計上否認について

(一) 企業経営において、開発や営業拡大等のためには、取引の直接の当事者ではない紹介者等を接待等しなければならないが、当該支出は、企業機密費として、企業経営上、不可欠のものであり、そのうちのある程度の金額は、企業規模、営業種目、営業活動等を考慮して、支出先不明のままであっても、交際費として損金と認めるべきである。

前記の架空給料手当計上額欄記載の金員(以下「本件金員」という。)の支出は、役員給与の形式をとっているが、原告代表者が原告会社を営業するに当たって、支出先を明確にしえない交際や慶弔等領収書の取れない支出であり、原告の企業規模や業種などからすれば、支出先不明であっても損金と認められるべき右企業機密費の範囲内にある。

(二) 仮に、右の主張が認められないとしても、本件金員は、損金に算入されるべき役員報酬である。すなわち、本件金員は、税務当局が損金として認めないため、やむをえず代表者個人の負担において支出してきたものであるが、本来、原告が負担すべきであるため、補完的に、かつ継続的に報酬として埋め合わせてきたものであって、その支給は一時的なものではない。しかも、支給額も単に恣意的に決めたのではなく、昭和五四年一〇月は二〇万円、同年一一月から昭和五五年一一月までは三〇万円、同年一二月から昭和五七年三月までは五〇万円の一定額を支給し、それで足りない分及び特に多額に支出した分については、ボーナス期等において調整を図ってきた。昭和五七年四月以降については、経営状況の変化のため、不定期な支払方法をとっているが、その支払も恣意的、一時的なものではない。以上のとおり、本件金員の支出には経常性が認められるから、本件金員は役員報酬として損金と認められるべきである。

2  売上計上漏れについて

被告は、前記のとおり、事業年度の三月一六日から同月三一日までの売上げとして、計上漏れがあるとして各事業年度に加算したが、右加算処理は不当である。けだし、右売上げに相当する役務の提供に係る債権の発生時については、原告が取引相手に計算書を送付し、かつ、相手方が内容をチェックして初めて債権が確定的に発生するというべきであり、単に役務の提供が終了すれば、債権が発生するわけではない。これは、本件のような継続的役務提供の取引につき、商業界の慣習であり、かつ、会計処理が特にコンピューター処理されている現状では、計算書の処理に合わせて経理処理がなされるのであって、その時点で債権が発生するというべきで、企業経理の実態に即して税法上の債権発生時を民商法上の債権発生時と異にすることが、企業会計の効率性及び税務会計との適合性に適う。したがって、本件においては、各年度四月時をもって前記債権が発生すると考えるべきである。仮に、役務の終了時に債権が発生するとすると、原告を含めて現代の企業は、税務上の申告のため、年度末期の処理について、その総ての役務終了時を確認しなければならないことになり、その事務量は膨大なものになってしまう。

3  損金と認められない交際費について

原告が昭和五六年三月三一日付けで交際費として計上した七五万円については、当初、被告が役員賞与であるとして否認したが、異議決定において、原告の交際費支出であるとの損金主張が認められ源泉所得税の賦課につき、異議を認め、取り消した。被告は、原告主張に対する右賦課取消事由の反対解釈として、その支出は交際費であることを認めた。しかるに、本件更正においては、右交際費認定を否認し、不可解な自己矛盾の決定をしている。

4  禁反言又は信義誠実の原則について

原告は、昭和五八年二月一五日、神田税務署員の指導に基づき、昭和五五年三月期から昭和五七年三月期までの各事業年度の確定申告について修正申告をした。右修正申告前の調査においても、本件更正前の調査においても、原告が提供した資料その他経理処理上の状況は全く同一であったから、右事業年度に係る更正の理由とされているものは、修正申告時の税務署員の見解と本件更正時の税務署員の見解との相違によって生じたことになる。しかし、税務当局の見解の相違によって、企業の経理処理解釈が朝令暮改となっては、企業運営に支障を来すことは明らかである。国税通則法七〇条も、納税者の法的安定性を図る規定であるから、所定の期間内であっても、禁反言又は信義誠実の原則が適用されるというべきであり、本件においては、前記修正申告に際し、神田税務署から修正申告額を教示、指導されたことにより、原告の前記事業年度の所得額及び法人税額は確定したものであって、当該事業年度に係る本件更正は違法であって、取り消されるべきである。

六  被告の再反論

1  架空給料手当計上否認について

原告の本件金員の支出は交際費の支出である旨の主張は、全く証拠に基づかないものである上、企業経営においては機密費が必要不可欠であるという原告独自の見解に基づくものであって失当である。

また、原告は、本件金員の支給は、恣意的、一時的なものではなく、役員報酬に当たる旨を主張するが、本件金員の支給の状況をみると、支払の時期が一定せず、金額も増減を繰り返しているのであって、原告が本件金員を恣意的に支給したことは明らかであり、原告が本件金員とは別に毎月定期の役員報酬を福永に支給していることを考え併せれば、本件金員が経常性のない一時的なものであることも明らかである。

2  売上計上漏れについて

原告は、役務の提供後、取引相手に計算書を送付し、相手方が内容をチェックした時点で当該債権が発生する旨を主張するが、請負代金債権については、役務の提供時において支払請求権が発生する。本件売上計上漏れに係る役務の提供は、各事業年度末において完了しているのであるから、当然に右役務の提供による代金請求権の成立は確定しているのであって、前記のとおり、当該売上計上漏れ額を各事業年度の収益に計上することは、企業会計上も適正な処理といえる。原告の主張は、単に原告における事務量の増大をもって被告の処分を非難するものにすぎず、失当である。

3  損金と認められない交際費について

原告の主張は、源泉徴収所得税の納税の告知を取り消した異議決定の理由を誤解しているか、あるいは、原告独自の解釈に基づく主張であって、失当である。被告は、異議決定において、原告が交際費として経理していた七五万円を使途不明金であると認定したため、当該納税の告知を取り消したのであり、これを交際費であると認定したわけではない。

4  禁反言または信義誠実の原則について

原告が指摘する修正申告は、被告が調査を行ったところ、原告の確定申告書に記載されていた所得金額に誤りがあり、他に加算すべき所得金の存することが認められたことから、加算すべき金額を示して修正申告書の提出を指導し、これに基づいて原告からなされた。一方、これに対する更正は、被告が原告の後続事業年度を対象とした調査を実施した結果、前記調査では把握しえなかった他の所得の存在が確認されたため、その調査結果に基づいて行われた。したがって、右の本件更正は、国税通則法二四条の規定に沿った適法なものであり、何ら非難されるべき点はない。被告が行う調査の時期や内容、これに基づく判断等は、法の許容する限度において、専ら被告の自由裁量に委ねられているところであり、被告の右各調査結果が一致しないことは当然であって、国税通則法二六条が再更正に関し規定している所以である。

また、被告が前記修正申告に際し示した見解は、修正申告前の調査において把握した範囲内の原告の申告漏れ所得の存在の表示とこれを加算した修正申告書の提出の指導であって、納税者の信頼の対象となる公的見解に当たらないことは明らかであり、本件更正に信義則の法理を適用する余地はない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(処分等の経緯)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告が取消しを求めている右各処分の適法性について検討するが、まず初めに、原告の主張について判断する。

1  本件金員の性質について

(一)  原告が、別表二ないし六の各付表記載のとおり、支払年月欄の各月分の給料手当てとして、給料手当実際支払額欄の金額を使用人に支払っていたが、総勘定元帳の給料手当勘定には、給料手当勘定計上額欄の金額を計上し、これを損金の額に算入していたこと、ところが、その差額である架空給料手当計上額欄の金額に相当する本件金員のうち、大部分を原告の代表取締役福永忠男の銀行預金口座に入金し、その余の部分を右福永に現金で手渡していたことは、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、企業経営において、開発や営業拡大等のために紹介者を接待等する支出は、企業機密費として不可欠のものであり、そのうちのある程度の金額は、企業規模等を考慮して、支出先不明のままであっても損金と認めるべきであるとの立場に立ち、本件金員は、役員給与の形式をとっているが、原告代表者が原告会社を営業するに当たって、支出先を明確にし得ない交際や慶弔等領収書の取れない支出であり、原告の企業規模や業種などからすれば、支出先不明であっても損金と認められるべき右企業機密費であると主張する。

しかしながら、損金の額に算入される交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう(租税特別措置法六二条三項)と規定されており、その支出先が明らかでなければならないものであるというべきであるから、現行法上、支出先が不明であっても損金と認められる企業機密費なるものを肯認する余地はなく、原告がその主張の前提とする見解は独自のものであって採用することができない。そうすると、原告の主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

(三)  原告は、予備的に、本件金員は、被告が主張する役員賞与ではなく、損金の額に算入されるべき役員報酬と認められるべきであると主張する。

法人税法においては、役員報酬とは、役員に対する給与のうち、賞与及び退職給与以外のものをいい(同法三四条二項)、右賞与とは、役員に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう(同法三五条四項)と規定されているところ、右の臨時的な給与に当たるか否かは、当該給与の支給時期、支給回数及び支給額並びにその他の給与の支払状況など諸般の事情を総合して考察すべきであり、当該給与が経常性のない一時的なものであると認められる場合は、右にいう臨時的な給与に該当すると解すべきである。本件において、

(1) 本件金員の支払状況が、別表二ないし六の各付表記載のとおり、

<1> 昭和五五年三月期

昭和五四年一〇月 二〇万〇〇〇〇円

同年一一月 三〇万〇〇〇〇円

同年一二月 四五万七七五〇円

同年同月 五〇万五〇〇〇円

昭和五五年一月 三〇万〇〇〇〇円

同年二月 三〇万〇〇〇〇円

同年三月 三〇万〇〇〇〇円

<2> 昭和五六年三月期

昭和五五年四月 三〇万〇〇〇〇円

同年五月 三〇万〇〇〇〇円

同年六月 八〇万〇〇〇〇円

同年七月 三〇万〇〇〇〇円

同年八月 三〇万〇〇〇〇円

同年九月 三〇万〇〇〇〇円

同年一〇月 三〇万〇〇〇〇円

同年一一月 三〇万〇〇〇〇円

同年一二月 五〇万〇〇〇〇円

同年同月 五〇万〇〇〇〇円

昭和五六年一月 五〇万〇〇〇〇円

同年二月 五〇万〇〇〇〇円

同年三月 五〇万〇〇〇〇円

<3> 昭和五七年 三月期

昭和五六年四月 三〇万〇〇〇〇円

同年五月 三〇万〇〇〇〇円

同年六月 五〇万〇〇〇〇円

同年九月 三〇万〇〇〇〇円

同年一〇月 五〇万〇〇〇〇円

同年一一月 五〇万〇〇〇〇円

同年一二月 五〇万〇〇〇〇円

同年同月 一二〇万〇〇〇〇円

昭和五七年一月 五〇万〇〇〇〇円

同年二月 五〇万〇〇〇〇円

同年三月 五〇万〇〇〇〇円

同年同月 二九万八〇〇〇円

<4> 昭和五八年三月期

昭和五七年六月 九九万八〇〇〇円

同年八月 三〇万〇〇〇〇円

同年一二月 九九万八〇〇〇円

昭和五八年二月 五〇万〇〇〇〇円

同年三月 五〇万〇〇〇〇円

同年同月 八〇万〇〇〇〇円

<5> 昭和五九年三月期

昭和五八年六月 九五万〇〇〇〇円

同年一二月 一三五万六六〇〇円

昭和五九年三月 一二五万〇〇〇〇円

であることは、前記のとおり、当事者間に争いがない。

(2) 乙第三号証の一ないし三(書き込み部分につき、証人十文字武志の証言により成立を認める。その余の成立は、原本の存在及び成立を含めて争いがない。)及び第一一号証(同証言により成立を認める。)並びに原告代表者本人尋問の結果を総合すれば、原告は、福永忠男に対し、本件における係争事業年度において本件金員のほかに、毎月ほぼ定額の役員報酬を支給していたことが認められる。

以上の本件金員の支給時期、支給回数及び支給額等並びにその他の給与の支払状況など諸般の事情を総合して判断すると、本件金員は、経常性のない一時的なものであると認められるから、前記の臨時的な給与に該当するというべきである。そして、右の事情に照らすと、本件金員は、継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されたものということができないうえに、他に定期の給与を受けている福永忠男に対して支給されたものであるから、前記法人税法の規定に基づき、役員賞与にほかならないというべきであり、したがって、本件金員の額を損金の額に算入することはできないものといわざるを得ない。

2  請負代金債権の発生時期について

原告は、本件における請負代金債権は、役務の提供後、取引相手に計算書を送付し、相手方がその内容をチェックして初めて確定的に発生するというべきであると主張する。

法人税法においては、法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資産等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とし(同法二二条二項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される(同法同条四項)と規定されている。企業会計上は、発生主義によって損益を認識すべきものとされている(企業会計原則第2損益計算書原則1)が、請負代金債権については、その支払時期が到来して初めて現実に収入しうるのであるから、この時に発生するとして、益金の額に算入することが一般に公正妥当な会計処理であるというべきである。そして、請負代金の支払時期は、物の引渡しを要するときは、仕事の目的物の引渡しと同時であり、物の引渡しを要しないときは、仕事の終了の時である(民法六三三条)。そうすると、法人税法においては、物の引渡しを要する請負においては、請負人が仕事を完成して目的物を引き渡した時、物の引渡しを要しない請負においては、請負人が仕事を完成した時、それぞれ、請負代金債権が発生し、その収益の額は、当該日時が帰属する事業年度の益金の額に算入することとなる。

原告が、テイアックとの間で、またシャープとの間で、それぞれ、相手方が販売した製品の修理等のサービスを代行することを内容とする請負契約を締結し、当該契約に基づいて、当該製品の修理等の役務の提供をし、その対価を相手方から売上げとして得ていたこと、ところが、テイアックに対する昭和五五年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額八三万八一〇〇円を昭和五五年三月期の売上げとして益金の額に算入していなかったこと、テイアックに対する昭和五六年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額二〇万六三七〇円を昭和五六年三月期の売上げとして益金の額に算入していなかったこと、テイアックに対する昭和五七年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額一〇〇万三六三〇円及びシャープに対する昭和五七年三月一六日から同月三一日までの間の役務の提供に対する対価と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額二六万四〇〇〇円を昭和五七年三月期の売上げとして益金の額に算入していなかったこと、テイアックに対する昭和五八年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額一一九万六三四〇円及びシャープに対する昭和五八年三月一六日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額八四万一〇〇〇円を昭和五八年三月期の売上げとして益金の額に算入していなかったこと、テイアックに対する昭和五九年三月二一日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額四四二万三一七〇円及びシャープに対する昭和五九年三月一六日から同月三一日までの間の右役務の提供に対する対価の額と右期間以前における役務の提供に対する対価で同日現在において未収の額との合計額九四万七八〇〇円を昭和五九年三月期の売上げとして益金の額に算入していなかったことは、いずれも当事者間に争いがなく、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告とテイアック又はシャープとの間の前記請負契約が目的物の引渡しを要しないものであることは明らかである。そうすると、右請負代金債権は、当該製品の修理等を現実にした時に発生し、その収益の額は、当該日時が帰属する事業年度の収益の額に算入すべきものというべきである。原告は、現在の企業経理においては、右のような処理には膨大な事務量が伴うなどの事情を強調し、前記の主張をするが、このような事情があるとしてもなお、原告の主張を採用することはできない。

3  交際費の自認について

原告は、前記の昭和五六年三月三一日付けの七五万円については、被告が異議決定において交際費であることを認めたと主張する。

甲第二号証(原本の存在及び成立を含め、成立に争いがない。)よれば、被告は、当該異議決定において、昭和五六年三月三一日付けで計上した交際費七五万円は、代表者が個人的に費消したとは認められないとしたうえで、納税の告知のうち、この部分を取り消し、不納付加算税賦課決定を一部取り消したことが認められるが、これは、当該七五万円は役員賞与であるとの認定を取り消したものであって、当該七五万円が交際費であることを認めたわけではない。原告代表者本人は、その本人尋問において、原告の主張に沿う供述をしているが、これは、異議決定書(甲第二号証)からこのように理解したというにすぎないものであって、採用の限りでなく、他に原告の主張を裏付ける証拠はない。

4  禁反言又は信義誠実の原則について

原告は、禁反言又は信義誠実の原則に基づき、昭和五五年三月期から昭和五七年三月期までの各事業年度の所得額及び法人税額は、修正申告に際し神田税務署員から指導を受けたことにより確定したとして、右事業年度に係る本件更正は違法である旨を主張する。

しかしながら、税務署長は、申告された課税標準又は税額等の計算が法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該課税標準又は税額等を更正することができる(国税通則法二四条)のであって、納税申告後に、税務署職員が調査に基づいて納税義務者に指導等をし、これにより納税義務者が修正申告をしたからといって、当該修正申告後、さらに調査をし、その結果に基づいて税務署長が更正をすることができなくなってしまうものではない。このことは、いったん更正をした後であっても税務署長は、更正をした課税標準又は税額等が過大又は過少であることが判明したときは、その調査により、さらにこれを変更する処分をすることができる(同法二六条)という再更正の規定があることからも明らかである。また、原告は、修正申告時の税務署職員の見解と本件更正時の税務署職員の見解の相違によって本件更正がなされたものと主張するが、証人十文字武志の証言によれば、被告の職員である同証人が、原告の修正申告後である昭和五九年八月ころ、原告の昭和五九年三月期に係る法人税及び源泉徴収所得税の調査を開始したところ、当該所得の金額に関し、本件更正の理由となった前記諸事情の端緒が見出されたため、昭和五五年三月期から昭和五八年三月期に係るものを含め、同諸事情に関し、昭和五九年一二月ころまで約五か月間にわたって様々な調査を遂行し、その調査に基づいて被告が本件更正をしたことが認められるのであって、税務署職員の単なる見解の相違から本件更正がなされたわけではないというべきである。そうすると、本件において、禁反言又は信義誠実の原則を適用する余地はなく、原告の主張は理由がないといわざるを得ない。

三  以上の判断を踏まえて、本件更正の適法性について検討する。

1  昭和五五年三月期について

(一)  原告の申告に係る所得の金額が八七三万四九三三円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  本件金員は、前記のとおり、役員賞与と認められるから、そのうち当期において支給された部分の額二三六万二七五〇円を加算する。

(三)  原告がテイアックに対し当事業年度において役務を提供した前記請負代金の額八三万八一〇〇円は、前記のとおり、当事業年度の益金の額に加算すべきであるから、これを加算する。

(四)  原告が昭和五四年三月期において役務を提供した請負代金の額四〇万九八二〇円は、前記のとおり、昭和五四年三月期の益金の額に算入すべきであるから、これを減算する。

(五)  以上のとおり、原告の当事業年度の所得の金額は、一一五二万五九六三円となる。

2  昭和五六年三月期について

(一)  原告の申告に係る所得の金額が一二三二万〇八七〇円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  本件金員は、前記のとおり、役員賞与と認められるから、そのうち当事業年度において支給された部分の額五四〇万円を加算する。

(三)  原告がテイアックに対し当事業年度において役務を提供した前記請負代金の額二〇万六三七〇円は、前記のとおり、当事業年度の益金の額に加算すべきであるから、これを加算する。

(四)  原告が昭和五六年三月三一日付けで交際費として計上して損金の額に算入した七五万円は、前記のとおり、被告が異議決定において交際費であると認めたわけではない。当該七五万円につき、原告は交際費である旨を主張するが、原告代表者本人は、その尋問において、交際費であるというだけで、その支出先等を一切明らかにしないから、その供述から直ちに右七五万円が交際費であると認定することはできない。その他右金員の使途につき、これを明らかにする証拠はない。そうすると、これは損金の額に算入することはできないから、当該七五万円を加算する。

(五)  原告が昭和五五年三月期において役務を提供した前記請負代金の額八三万八一〇〇円は、前記のとおり、昭和五五年三月期の益金の額に算入すべきであるから、これを減算する。

(六)  昭和五五年三月期の更正額に見合う事業税三一万一一二〇円を減算する。

(七)  以上のとおり、原告の当事業年度の所得の金額は、一七五二万八〇二〇円となる。

3  昭和五七年三月期について

(一)  原告の申告に係る所得の金額が一六九三万〇〇四七円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  本件金員は、前記のとおり、役員賞与と認められるから、そのうち当事業年度において支給された部分の額五八九万八〇〇〇円を加算する。

(三)  原告がテイアック及びシャープに対し当事業年度において役務を提供した前記請負代金の総合計金額一二六万七六三〇円は、前記のとおり、当事業年度の益金の額に算入すべきであるから、これを加算する。

(四)  原告が昭和五六年三月期において役務を提供した前記請負代金の額二〇万六三七〇円は、前記のとおり、昭和五六年三月期の益金の額に算入すべきであるから、これを減算する。

(五)  昭和五六年三月期の更正額に見合う事業税六八万七三二〇円を減算する。

(六)  以上のとおり、原告の当事業年度の所得の金額は、二三二〇万一九八七円となる。

4  昭和五八年三月期について

(一)  原告の申告に係る所得の金額が一五六六万一〇〇三円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  本件金員は、前記のとおり、役員賞与と認められるから、そのうち当事業年度において支給された部分の額四〇九万六〇〇〇円を加算する。

(三)  原告がテイアック及びシャープに対し当事業年度において役務を提供した前記請負代金の総合計額二〇三万七三四〇円は、前記のとおり、当事業年度の益金の額に算入すべきであるから、これを加算する。

(四)  原告が昭和五七年三月期において役務を提供した前記請負代金の額一二六万七六三〇円は、前記のとおり、昭和五七年三月期の益金の額に算入すべきであるから、これを減算する。

(五)  昭和五七年三月期の更正額に見合う事業税六七万六七六〇円を減算する。

(六)  以上のとおり、原告の当事業年度の所得の金額は、一九八四万九九五三円となる。

5  昭和五九年三月期について

(一)  原告の申告に係る所得の金額が二〇八四万五〇四三円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  本件金員は、前記のとおり、役員賞与と認められるから、そのうち当事業年度において支給された部分の額三五五万六六〇〇円を加算する。

(三)  原告がテイアック及びシャープに対し当事業年度において役務を提供した前記請負代金の総合計額五三七万〇九七〇円は、前記のとおり、当事業年度の益金の額に算入すべきであるから、これを加算する。

(四)  原告が昭和五八年三月期において役務を提供した前記請負代金の額二〇三万七三四〇円は、前記のとおり、昭和五八年三月期の益金の額に算入すべきであるから、これを減算する。

(五)  昭和五八年三月期の更正額に見合う事業税四五万一三〇〇円を減算する。

(六)  以上のとおり、原告の当事業年度の所得の金額は、二七二八万三九八四円となる。

6  そうすると、本件更正(前記のとおり、昭和五六年三月期及び昭和五九年三月期については、審査裁決により一部取り消された後のもの)に係る原告の各所得の金額は、いずれも、右各所得の金額の範囲内にあるから、本件更正は適法である。

四  次に、本件重加算税賦課決定及び本件過少申告加算税賦課決定の適法性について検討する。

1  前記のとおり、原告は、その代表取締役福永忠男に対し役員賞与として本件金員を支給していたにもかかわらず、これを使用人の給料手当てとして損金に計上して申告していたものである。そうすると、原告は、その法人税に係る所得の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部について隠蔽又は仮装し、その隠蔽又は仮装したところに基づいて申告していたことになる。そこで、被告は、国税通則法(昭和五九年三月法律五号による改正前のもの)六八条一項に基づき、別表七記載のとおり、各重加算税を賦課決定したのであるから、本件重加算税賦課決定は適法である。

2  前記のとおり、昭和五九年三月期につき、原告の申告に係る法人税額は、本件更正により過少となるから、被告は、国税通則法(昭和五九年三月法律五号による改正前のもの)六五条一項の規定に基づき、別表七記載のとおり、各過少申告加算税を賦課決定したのであって、本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

五  最後に、本件納税の告知及び本件不納付加算税賦課決定の適法性について検討する。

1  原告がその代表取締役福永忠男に対し役員賞与を支給していたものであることは、前認定のとおりである。そして、原告が右役員賞与に係る源泉徴収所得税を納付していなかったことは、当事者間に争いがなく、また、原告が福永藤太呂に対し、昭和五六年四月から昭和五九年三月までの各月に月額五万円の役員報酬を支給していたにもかかわらず、右報酬に係る源泉徴収所得税を納付していなかったことも、当事者間に争いがない。そこで、被告は、右賞与及び報酬に係る源泉徴収所得税を徴収するために本件納税の告知をしたのであるから、本件納税の告知は適法である。

2  本件納税の告知がなされたにもかかわらず、原告が当該源泉徴収所得税を法定納期限までに納付しなかったことは、当事者間に争いがない。そこで、被告は、国税通則法六七条一項の規定に基づき、不納付加算税の賦課決定をしたのであって、本件不納付加算税賦課決定は適法である。

六  以上のとおり、原告が取消しを求めている本件更正等の各処分には、原告が主張する違法事由はなく、いずれも適法になされたものというべできある。

七  よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 小林昭彦)

別表一の1

昭和五五年三月期(五四・四・一~五五・三・三一)

<省略>

別表一の2

昭和五六年三月期(五五・四・一~五六・三・三一)

<省略>

別表一の3

昭和五七年三月期(五六・四・一~五七・三・三一)

<省略>

別表一の4

昭和五八年三月期(五七・四・一~五八・三・三一)

<省略>

別表一の5

昭和五九年三月期(五八・四・一~五九・三・三一)

<省略>

別表一の6

源泉所得税の納税告知処分等の経緯

<省略>

別表一の6の付表

<省略>

<省略>

別表二

昭和五五年三月期(五四・四・一~五五・三・三一)

<省略>

別表二の付表

<省略>

(注) 「<5>備考」欄に、「三菱/秋葉原(普)」とあるのは三菱銀行秋葉原支店の福永忠男の普通預金口座に、「三菱/三ノ輪(普)」とあるのは三菱銀行三ノ輪支店の福永忠男の普通預金口座に、「三菱/秋葉原(当)」とあるのは三菱銀行秋葉原支店の福永忠男の当座預金口座にそれぞれ入金されたものであり、また、「現金」とあるのは福永忠男に現金で手渡されたものを示す。

別表三

昭和五六年三月期(五五・四・一~五六・三・三一)

<省略>

別表三の付表

<省略>

別表四

昭和五七年三月期(五六・四・一~五七・三・三一)

<省略>

別表四の付表

<省略>

別表五

昭和五八年三月期(五七・四・一~五八・三・三一)

<省略>

別表五の付表

<省略>

(注)別表二の付表の注に同じ

別表六

昭和五九年三月期(五八・四・一~五九・三・三一)

<省略>

別表六の付表

<省略>

(注)別表二の付表の注に同じ

別表七

重加算税及び過少申告加算税の計算表

<省略>

注1 重は重加算税、少は過少申告加算税である。

注2 各加算税の計算の基礎となる税額は、国税通則法一一八条三項の規程により一万円未満の端数を切り捨てたものである。

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